恩師

私が通う技術専門校建築科には二人の教官がいる。

 

普段はおっかないが生徒思いの鬼教官と温厚で冗談ばかり言っている話好きな教官。

刑事ドラマでよくある鬼と仏の構図。

 

鬼教官

平ほぞ加工の演習が印象的だった。

鑿(のみ)を材木にあて大げんのう(カナヅチ)で鑿のかつら(柄のおしり部分)を叩き長方形に穴を掘っていく。

大工さんの基本技術。

作業台に置かれた材木に腰を下ろし刃先をそっと木にあて大げんのうを振う。

実習棟に乾いた打撃音が鳴り響く。

教官の頭の位置まで静かに持ち上げられた大げんのうは一気に振り降ろされかつらを叩きつける。

目線は刃先しか見ていない。

何百、何千回繰り返してきた動作。

この佇まいと所作が力強く私には仁王様に見えた。

普段はおっかないけど始業前、放課後と時間外でもいやな顔一つせずに私に付き合って指導してくれたツンデレ仁王。

 

仏教官

教科書の監修を務めたり国家技能試験の試験官をしたりと建築知識が豊富。そして技術も早く正確。

ノコギリで材木を切るときに『シュシュシュシュシュッ!』と教官が冗談で口にしていたのを間に受け『これがノコ引きの極意か!』と勘違いしてしばらくの間『シュシュシュッ!』と声に出して材木を切っていた私。

入学当初、若いクラスメートの中でだいぶ年上の私がまだ馴染めていない事に気にかけてよく話かけてもらった事を今もよく覚えている。

学校の休日に工房で仕事をしていると野太いバイクのエンジン音が聞こえる。

おっかない人が店に来たのかなと恐る恐る顔を出すと革のライダースを着た仏教官。

週末、暇をみては差し入れをもって遊びにきてくれる教官と黄昏時のウッドデッキで話すのが楽しみだった。

 

私のような生徒の的外れした質問に対しても絶対バカにはせずに真摯に向き合い答えまで導いてくれる二人の教官。

 

どちらも私が尊敬する恩師だ。